
2020年1月2日(木)ついに「第6回 鋸山美術館コンクール」の展覧会が始まりました。思い起こせば、昨年春からの募集要項作成に始まり、要項配布、応募締切(締切延長)、そして12月の審査、図録作成と慌ただしく準備を進めてきました(年末はもちろん展示替え)が、なんとか無事に初日を迎えることができました。
また、1月11日(土)には出品者をお招きしての表彰式も盛大に行うことができました。
ここで改めて「第6回 鋸山美術館コンクール」の全容とその魅力について記しておきたいと思います。
最初の課題は募集要項の作成

コンクールの最初の仕事は募集要項の作成です。毎回、前年度の反省を生かして取り組みますが、今回の特徴は何といってもシンプルな表紙です。
それまでの「金谷美術館コンクール」から「鋸山美術館コンクール」へと名称が変わり、聞き慣れない美術館名ということもあり、それまでのイメージ戦略を最大限に生かしつつ美術館の外観を背景に「募集要項」の文字と「締切日」が目立つよう大きめのフォントで構成しました。
今まで金谷美術館コンクールの募集要項を目にしたことのある人にも親近感が湧くよう、なるべくシンプルな構成の表紙を心がけました。
また、裏面の申込み方法でも図やピクトグラムを用いて、前年と比べて初めての方でも混乱しないようなるべく分かり易い説明になっています。
募集要項の発送は1ヶ月ほどかかる
要項が印刷所から上がってくると、次は発送準備にかかります。例年ですと7月には第一弾を発送するのですが、今回は他の展覧会の準備等が重なり例年より1ヶ月遅れの発送となりました。
そして今回は合計約2,000通の募集要項を全国の美術館と関東圏の図書館、公民館、そして過去の出品者などに送りました。少ない人数での発送ということもあり発送だけでも約1ヶ月はかかります。
そして今回、新たな試みとしてはウェブ系の公募サイトに登録しました。年を追うごとにウェブサイトからの応募が増えており、今年は更に「登竜門」や「コンペナビ」などのウェブ系の公募サイトにも大変お世話になりました。
台風15号による被害で開催の危機に

募集要項の発送が終わると一段落。通常夏から秋にかけては他の展覧会の準備もあり、コンクール関係の作業は小休止となります。しかし、今回は台風15号による長期の停電と断続的な断水により金谷地区周辺は大打撃を受け、一時はコンクール開催も危ぶまれる状況でした。
毎年の出品者の内訳として千葉県内の方が多く、同じように台風の影響で思うように制作できないといった声が聞かれました。しかし、そのような厳しい状況にありながら美術館へ励ましのお言葉や応援のメッセージをくださる方が多く、今年も頑張らねばならぬと決意を新たにしました。
9月に入り、コンクールの応募受付の開始を迎えましたが、例年この時期はあまり申込みがなく、本格的に書類が届くのは10月に入ってからなので、まだ余裕があります。しかし、中には申込み受付開始の初日に応募書類を届けてくれるなど、毎年の出品者には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
10月は入力作業に追われる日々
10月に入り申し込みが増えてくるとやらなければならない作業があります。それは申込書の内容をデータに起こす作業で、氏名や作品名に始まりタイトル、大きさ、技法など細かな情報も全てパソコに入力していきます。
特に大変なのが作品コメントです。鋸山美術館コンクールでは出品者の皆さまから応募作品にまつわるエピソードなどのコメントを頂戴しており、そのコメントは展覧会の展示キャプションや図録に掲載します。なお、図録にも全ての作品のコメントを載せるので入力作業だけでもかなりの時間がかかります。
毎回、作品コメントを読むと出品者の方の作品に込める想いが伝わってきて大変興味深いのですが、この時点ではまだ作品が届いていないので、どんな作品なのかコメントから推測するのが唯一の楽しみです。後々、作品が届いてからコメントを読むと「ああ、これはそういう絵だったのか」と妙に納得することも少なくありません。実に興味深い体験であります。
11月は申込みのピークで大忙し
11月に入ると申込書が1日に数十件と届き、入力作業も佳境に入ります。毎年、11月上旬に設定している締切日ですが、今回は11月に入っても前回の申込数をかなり下回る状況でした。
9月の台風15号や台風19号、その後の大雨など全国的にも災害が多く、応募をしたくても制作が間に合わない方が多くいらっしゃるのではないかと、美術館内で緊急会議が開催され、それにより急遽申込み締切延長の措置を取らせていただきました。
新しい締切日は11月下旬となり、それでも間に合わない方には個別に対応させていただきました。その結果、ギリギリまで頑張って描いてみるというお電話をいただいたりと、皆さん厳しい状況ながら、最後の最後まで応募しようと頑張ってくれました。本当に感謝しています。
11月中旬からの作品搬入がコンクールの本当の始まり

今年の作品搬入は計4日間で、最初の宅配搬入が11月14日(木)、15日(金)の2日間でした。ここからが実はコンクールの本番で、宅配搬入では1日に数十点の作品が全国から届き、宅配業者さんも数十箱という作品を連日配達し、保管場所としている美術館のロビーはダンボール(作品)の海と化します。
開梱作業も一苦労です。大切な作品なので皆さん作品をダンボールやエアークッションでぐるぐる巻きにされています。それらを傷つけないよう手作業で開けていくのですが、開梱だけでも1日があっという間に過ぎていきます。
この開梱作業は大変ですが、スタッフにとっては出品者の作品を誰よりも早く目にすることができる貴重な経験でもあります。毎年出品くださる方の場合「今年もこのテーマで来たか」とか「作風が変わってきたな」など毎回驚きの連続です。
宅配搬入が終わると息つく暇もなく直接持込が始まり、11月16日(土)、17日(日)の2日間に渡って対応することになります。
特にこの直接搬入は出品者の皆さまと直にお会いするチャンスであり、今回は特に励ましのお言葉を多くいただきました。改めて出品者の皆さまに支えられて鋸山美術館コンクールはあるのだと再認識いたしました。
図録用の写真撮影は丸々4日かかる
開梱や搬入が終わると、次は写真撮影が待っています。今回のコンクールでは233作品の応募がありましたので、撮影も233点にのぼりました。
毎回、ライティングには苦労します。自然光で撮影すると色味が変わってきたり、1日のうちで何時間も撮影できなかったりと試行錯誤の連続です。今回は特別に美術館の一室を撮影ブースに仕立て一日中撮影を行う日が続きました。
作品の中には額縁にアクリルが付けられているものがあり、その場合は映り込みや反射の関係で外さなければならず、1日にたくさんの作品を撮影することができません。結局今回は丸々4日ほど撮影にかかりました。
コンクールの山場、審査会の様子

11月下旬からはコンクールの最大の山場、審査会の準備が始まります。今回の審査会では事前に審査員に作品画像を一覧にしたA4の冊子を渡し、審査会前に作品のジャンルや内容を確認してもらいました。
例年、審査は限られた時間の中で行わなければならず、なかなかじっくり審査を行うことができずにいました。その意味もあって今回は事前に作品画像だけですが、見ていただき審査に臨んでもらいました。もちろん公平性の観点から作者の名前やタイトル等は伏せてあります。
そして、いよいよ審査本番。審査は12月9日、10日の2日間に渡って行われました。今回の審査では全ての作品に審査員が点数を付け、それに基づいて上位賞や特選、褒状といった賞を割り振っていきました。
前回までの審査では直接、個々の作品に入選や図録入選といったジャッジをしていましたが、今回は全ての作品で審査員が点数付け行い、その得票数に応じて特選、褒状、入選などを決めていきました。
また、新たな取り組みとして、今回は1作品ずつ審査員に見てもらう際にその作品のタイトルを同時に読み上げました。例年、審査では作品のみを見てジャッジしてもらうのですが、今回はタイトルを開示することで、より作品内容の理解に役立ったように思います。もちろん、作者名を明かすことはありませんが、タイトルの付け方で審査にプラスに働いた作品もあったように思います。
1日目の審査では全ての作品に点数を付け、高得点だったものは優秀賞以上とし、また点数に応じて特選や褒状、入選などを決めていきました。優秀賞以上とされたものでも、その中に2点出品している方の作品が2点とも入っていた場合は、どちらか一方を選び、残った作品は入選という扱いにしました。これは特選や褒状でも同じで、上位受賞を一人の人が独占することがないよう配慮した結果です。
以前のコンクールでは2点出品者の作品で一方が銅賞でもう一方が優秀賞という扱いをしたこともありましたが、今回は一方が褒状以上の場合は、もう一方は入選や図録入選の扱いとなっています。
2日目の審査では前日に優秀賞以上とされた作品を審査し、まずは銅賞以上の9作品を選出。その上で、さらに投票を重ね大賞や金賞、銀賞を決めていきました。
特に、銅賞以上の作品を決める際は、審査員が議論を重ね全員が納得のいく結果となるよう慎重に審査が進められました。結果、前回は大賞の選出を見送りましたが、今回は大賞1点、金賞1点、銀賞2点、銅賞5点と予定していた作品数を選出して審査を無事に終えました。
審査結果の発表に備えて
審査が終わると一段楽と思いきや、ここからが事務局の一番忙しい日々が始まります。まず、今回のコンクールでは審査が終了したのが12月10日で、コンクール展の始まりが翌年の1月2日と約3週間しかありません。
その3週間のうち最初の数日は審査結果発送の準備に追われ、出品者全員に各賞が明記された審査結果を送らなければなりません。
さらに、この審査結果のお知らせの際に、コンクール出品画像入り商品のご案内や、表彰式のお知らせなどを同封しなければなりません。スタッフで手分けして準備を行いますが、結果の印刷や封入作業など数日はかかってしまいます。
コンクール図録の作成は徹夜作業

審査結果のお知らせの発送が終わると、ここからはコンクール図録の作成に取り掛かります。今回は審査結果の発送が終わった後、他の展覧会の準備等があり、図録の作成にとりかかれたのが12月19日でした。入稿の最終締め切りが12月25日だったので、図録作成に費やせるのは1週間しかありません。
鋸山美術館コンクール図録の最大の特徴は何といっても、全作品の画像を掲載することで、展示されない作品も含めて、今回の展覧会でいえば233点を掲載することです。
しかも、全ての作品をコメント付きで掲載するため、とても時間がかかります。写真撮影と画像の切り抜きは予め終了させてありますが、作家名、作品名、画像、コメントの配置だけでも多くの時間がかかり、さらに審査員の先生方の審査所感や最終ページに索引をつけたりと、あっという間に時間が過ぎてしまい、結局、最後は徹夜で作業にあたりました。
展覧会準備も多忙を極める

図録の作成と並行してコンクール展の準備をするのですが、ここでも鋸山美術館コンクールでは毎年恒例となった展覧会キャプションの作業に追われることになります。
今回で3回目となりますが、昨年同様、全ての展示作品に作家コメントを添えて展示しています。また、スタッフがその作品について自由に思ったことを書くスタッフコメントもキャプションに掲載するため、多くの時間を要します。
毎年、コメントが小さくて読みにくいとのご指摘をいただくので、今回のコンクールではA3用紙の1/3がキャプションという特大サイズになっています。このキャプションに関しては、作品鑑賞の邪魔になるとのご指摘をいただくこともありますが、作品をコメント付きで鑑賞できるのは良いとのお言葉をいただくこともあり、毎回、試行錯誤の連続です。
そのキャプションの作成だけでも全てを終了させるのに数日を要し、12月24日から展示替えを行い終了したのは4日後の27日でした。最後は朦朧とした中で作業を終え、翌日からスタッフは年末年始のお休みとさせていただきました。
鋸山美術館コンクール展の開始と表彰式

そして元日が過ぎた翌日の1月2日から「第6回 鋸山美術館コンクール」の展覧会が始まりました。今回は1月2日から4月5日まで約3ヶ月の開催期間があり、昨年より大幅に延びました。多くの出品者に来ていただきたいという思いもありますが、それ以上にコンクール展自体の人気が高いこともその理由にあります。
そして、1月11日(土)には出品者をお招きしての表彰式が行われました。今回は55名の方々にお越しいただき、例年同様、賞状授与と懇親会が行われました。上位受賞者の方には、受賞スピーチをお願いしていて、今回鋸山美術館大賞を受賞された山崎良太さんは2015年からの応募で、5回目にしてついに大賞を受賞したと、静かに喜びを語ってくれました。
また、銅賞の景山秀郎さんも毎回、確実に賞の階段を登っていらっしゃり、次回作への意気込みも伺うことができました。
出品者同士も絵画という共通の話題で、活発な意見交換を行えたようで終始和やかな雰囲気の会になりました。
鋸山美術館コンクール虎の巻
鋸山美術館コンクールの展覧会では毎年、その見どころを「虎の巻」として掲げているので、その内容をご紹介します。
その1. 作品の数に圧倒されるべし!
今回のコンクールは応募総数が233点で、その内入選以上の作品203点が展示してあります。日本画や油絵、水墨画、水彩画などバラエティに富んだ作品が並ぶ姿は圧巻です。ぜひそれぞれの技法の違いにも注目してご覧いただければと思います。
その2. 作品コメントも読むべし!
鋸山美術館コンクールの特徴は何度も言っている通り、全ての作品にコメントが付いていることです。コメントを読むとこの絵はどこどこの風景だとか、どういった想いでこの作品を描いたのかといった、制作の舞台裏が分かります。作品を見ただけでは分からない作品の裏の裏まで鑑賞できるのも大きな特徴の一つです。
その3. 人気投票ではお気に入りの作品に投票すべし!
鋸山美術館コンクールでは来館者による人気投票を実施しています。あいにく1月2日の初日には間に合いませんでしたが、2日目からは来館者が1人1作品を選んでシールを貼っていきます。毎回、審査結果とは異なる作品が1位となることが多く驚いています。今年はどんな作品がトップとなるのか、今から楽しみです。
その4. 気に入った作品は購入すべし!
鋸山美術館コンクールの展示作品の中には購入できるものもあります。応募の際に、販売可能な作品がある場合は値段を書いてもらっていて、前回は4点の作品が販売に至りました。特に若い作家にとっては制作の励みになりますので、ぜひご興味がありましたらスタッフまでお気軽にお声掛けください。
その5. 鑑賞後はゆっくりコーヒーを味わうべし!
鋸山美術館コンクールを鑑賞し終えたら、ゆっくりラウンジでコーヒーを飲みましょう。ラウンジからは千葉県が誇る名山、鋸山を望むことができます。至福の一杯を美術館でどうぞ。
その6. 鋸山美術館ファンクラブに入るべし!
ここまで5つのステップ全てをクリアしたら、あと残るミッションは一つだけ。そう、それはファンクラブに入ることです。鋸山美術館ファンクラブに入会すると1年間いつでも何度でも企画展が見放題です。また、ミュージアムショップのお会計は10%OFFになり、コーヒー1杯無料券までついてきます。さらにさらに、ファンクラブ通信という刊行物までついてきて、驚きの年会費は何と3,000円。もう、入るしかないですね!
最後の最後に大仕事
鋸山美術館コンクールの最後の大仕事は作品の返却にあります。233点の作品を受付けるのも大変でしたが、返却作業もかなり大変です。例年、各出品者への返送用ボックスを調達して、1つずつ手作業で組み立てていきます。作品が輸送途中に傷つかないようダンボールで補強したり、作品自体もエアーキャップで包んだり、緩衝材を敷いたりと念入りに梱包していきます。
作品展示の終了と共に作品を壁から外し、作品を梱包し専用のボックスに入れます。少ない人数での作業なので最低2日はかかりますが、最後の最後まで気が抜けません。ちなみに展示のキャプションは記念にお送りしますので、届きましたら、スタッフコメントにもどうぞ目を通してみてください。美術館スタッフにとっては軽いラブレターのつもりです(笑)
次回のコンクールでお会いしましょう!
返却の準備は3月に入ってからになります。が、次回のコンクール準備も始めていかなければなりません。鋸山美術館にとってコンクールは約1年をかけた一大イベントです。ぜひ多くの皆さまにコンクールの楽しさを知ってもらえればと思います。次回もどうぞよろしくお願いいたします。