会期延長特別企画Ⅲ 高見直宏作品展

「房総から聞こえる鑿音 木彫家長谷川昻の記憶」会期延長特別企画の第三弾。
五感で制作に臨む木彫家 高見直宏氏の作品展示が始まりました。

高見氏は、東京藝術大学で彫刻を学び、在学中は深井隆氏に師事しました。その学生時代、網膜色素変性症であることが発覚します。その後日々少しず つ見えなくなっていく日常から、もともと見えないもの、実体のないものが高見氏の制作の対象となっていきます。

見たり、触れたりする ことは出来ないが、誰しもが感じている人間の精神部分や感情、魂な どとしての「エクトプラズム(*)」。科学的根拠はなくとも確かに感じることのできるこのイメージの産物を彫刻として形づくることで、高見氏は未知なる内面を含めた人間そのものを表現します。

* エクトプラズム(ectoplasm)とは、フランスの生理学者であるシャルル・ロベール・リシェが 1893 年につくり出した造語で、「魂の姿を物質化させる際に関与するとされる半物質、又は、ある種のエネルギー状態のもの」

高見氏は企画展示に寄せて、下記のように語ります。

 

正直なところ、今回の企画参加をご依頼頂いた際は、長谷川先生の展覧会で展示する上で、先生と私自身との関係性について考え、悩みました。

しかし、実際に鋸山で長谷川作品に触れ、先達の一人間としての営みや、彫刻家としての生き様、エネルギーを肌で感じることで、私の中の何かと繋がり、展示のイメージが湧き出てきたように感じています。

今回の企画が鋸山美術館の更なる発展と、
長谷川昻先生の展覧会成功に繋がる一助となれば幸いです。

 

一部の作品には直接触れることもできるこの展覧会。
木彫家たちの鑿音の共演を、美術館にてご鑑賞いただければ幸いです。
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会期延長特別企画「記憶を繋ぐ木彫家たち」について:
この企画展は、「 房総から聞こえる鑿音 木彫家長谷川昻の記憶 」の会期延長に際して、異なる角度から木彫の魅力に迫るための特別展示です。それぞれの感性で現代を生きる5人の木彫家に焦点を当て、下記の会期で、第3室を活かした展示を行います。

・最上 健  5月17日(水)ー 6月19日(月)
・岡本和弘  6月21日(水)ー 7月24日(月)
・高見直宏  7月26日(水)ー 8月28日(月)
・渡部 直  8月30日(水)ー 10月2日(月)
・桒山賀行  10月4日(水)ー 11月12日(日)

5人の作家の共通点は、木を材にした彫刻表現を探究する点にあります。長谷川昻もそうであったように、木彫家は、自然の一部として生きていた樹木を相手に、彫刻材としての木と向き合わねばなりません。アトリエに立てた丸太はそれだけで圧倒的な存在感を放ちます。作家は、その声に耳を傾けざるを得ず、材との距離や自身の造形哲学、葛藤が各人の木彫表現として表れます。
5人の作家と長谷川昻との直接の接点はありません。しかしながら、伝統木彫や工芸、芸術大学の系譜に位置する各人は、それぞれの立脚 地から自身の表現を示し、その作品は自ずと木彫文化の記憶を宿すものとなります。記憶の繋がりは、継承となるものか、また別の道を開拓するものか、あるいは将来的に交わるものとなるか…
そこに在る作品と、その作品が含むあらゆる要素に思いを巡らせ、鑑賞を楽しんでいただければ幸いです。
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